ねこさんの慢性腎臓病について

腎臓は、体内を流れる血液をろ過してくれる重要な臓器です。一度腎臓病を発症してしまうと失われた機能を回復させることは難しく、そのため早期発見および早期治療、さらには日頃の心がけ(定期健診)がとても大切です。

最近では、インターネット上にさまざまな情報が開示されていて、勉強熱心な飼い主様も多く、「ねこさんがよく水を飲むようになったのですが、腎臓病でしょうか?」というご相談をお受けすることも増えてきました。そこで今回はねこさんの慢性腎臓病について、少し詳しく解説していきます。

※腎臓病には短期間で腎機能が低下する「急性腎障害」と徐々に進行する「慢性腎臓病」がありますが、今回は「慢性腎臓病」についてのお話になります。

なぜねこさんの慢性腎臓病に気をつけなければいけないのか

腎臓は機能する部分が1/3以下になって初めて兆候が表れる臓器です。つまり、ねこさんの慢性腎臓病では、多飲多尿(水をよく飲み、尿がたくさん出る)や「ぐったりしている」などの全身症状に飼い主様が気づかれるタイミングでは、腎機能がすでに進行しているというケースが多いのです。

ねこさんの慢性腎臓病の主な原因は尿細管間質性腎炎ですが、そのほかにも腫瘍や感染、尿路結石、循環障害、嚢胞形成なども原因として挙げられます。多くの場合は原因に対する根本的な治療法はありません。慢性腎臓病が進行し、腎不全(腎臓が機能しなくなる)になると命に関わるため、注意が必要な病気なのです。

ねこさんの慢性腎臓病、早期発見・早期治療のためには

慢性腎臓病は完全に予防することはできませんが、早期発見と早期治療によってその進行を遅らせることが可能です。そのためには、ねこさんが健康な時から定期的に健康診断を行い、腎機能の数値を把握しておくことが大切です。もし健康診断で腎機能に関わる数値の異常を指摘された場合は、悲観せず、冷静に獣医師と相談してください。一度の血液検査だけで診断をすることは難しく、追加の検査(尿検査、画像診断、血圧測定など)によって進行度合い(ステージ)を含めた慢性腎臓病の診断となります。そして、その猫さんとご家族にとってベストな治療方針を相談しながら決定します。

昨年、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)が出している「慢性腎臓病ガイドライン」が更新されました。ねこさんの慢性腎臓病では、血液検査や尿検査、血圧測定や腹部超音波検査などを組み合わせて診断を行いますが、その中の血液検査において、治療の判断材料となる新たな指標が追加されました。それによって、より質の高い医療を提供できるようになりました。

2023のIRISによる慢性腎臓病(CKD)ガイドライン

まずは定期的に健康診断を受けていただき、腎機能に関する数値に異常がないか確認することから始めましょう。また、定期的に通院していただくことは、ねこさんが病院環境に慣れ、治療が必要となった場合もストレスなく通院できることにもつながります。

(ご参考)定期的な健康診断の受診をおすすめしています

もし慢性腎臓病と診断されたら

慢性腎臓病は、ステージによって治療方法が異なりますが、基本的には食事療法、内服薬、点滴(入院での静脈点滴あるいは通院、自宅での皮下点滴)、サプリメントなどを組み合わせて治療を行います。昨年のガイドラインの改訂では、食事療法の選択基準がより明確に示されたことで、より適切に腎臓病の管理ができるようになりました。

また、最近では補助治療として再生医療(幹細胞療法)のご提案ができる場合もあります。全ての患者様(ステージ)が対象となるわけではございませんが、ご興味のある飼い主様は一度獣医師までご相談ください。

(ご参考)慢性腸炎や慢性口内炎の治療に新たな選択肢~再生医療~が加わりました

おわりに

今回はねこさんの慢性腎臓病についてご紹介しました。定期的に健康診断を受け、とくに異常が指摘されていなければ、必要以上に怖がることはありません。しかし、しばらく健康診断を行っていない場合や、ねこさんの全身症状に明らかな不調が見られる場合は、慢性腎臓病に関わらず何かしらの病気が隠れている可能性がありますので、ぜひ一度受診されることをおすすめします。