前回のブログでご案内しました「ねこさんの慢性腎臓病について」院内セミナーへ、多数のご応募をいただきありがとうございました。定員以上のご応募をいただきましたので、抽選を行い、ご参加が確定した方のみへご連絡を行いました。今回不参加となった方には大変申し訳ございませんでした。皆様大変関心の高いテーマだと改めて再認識しましたので、今後また同様のセミナーを企画したいと考えております。
さて、今回のブログではFIP(猫伝染性腹膜炎)を取り上げます。少し前までは効果的な治療薬がなく、発症してしまうと致死率がほぼ100%という恐ろしい疾患でした。しかし、現在は有効な治療薬が開発され、早期診断および早期治療ができるようになりました。これらの治療薬は国内で未承認のものが主流となっており、治療費も高額になるケースが多かったため、治療に不安をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。今回は当院でのFIPの治療方針についてご紹介します。
FIP(猫伝染性腹膜炎)とは
FIPは、原因となる猫コロナウイルス(FCoV)がねこさんの腸内で突然変異し、病原性が高まることによって発症します。全身の強い炎症によって、腹水や胸水(ウェットタイプ)や神経症状(ドライタイプ)、下痢や嘔吐、食欲不振など多様な症状が見られます。無治療では命に係わる病気のため、早期診断と早期治療が必要な疾患です。
原因となる(突然変異していない)猫コロナウイルスの保有率はさまざまな報告がありますが、日本の飼育猫においては40%未満、多頭飼育施設では90%以上になるとの報告があります。猫コロナウイルス感染猫の約70%は一過性の感染に終わり糞便に排出されますが、10〜15%は持続感染となり、一部(最大10%)が 猫伝染性腹膜炎を発症します。発症する要因として以下の要素が関係していると考えられています。
- 集団飼育
- 2歳未満
- ストレス
- 未去勢オス
- 純血種
過度に心配する必要はありませんが、やはり日頃から栄養状態に気を付けていただき、重度のストレスがかからないよう注意が必要です。
札幌ねこの病院でのFIP(猫伝染性腹膜炎)の治療方針
当院を受診されてFIPの診断が確定した場合、最短84日間を1クールとして治療を行います。当院では現時点で抗ウイルス薬として「モヌルピラビル」「GS-441524」「レムデシビル」をFIPの治療薬の選択肢としてご提案しています。また、抗炎症薬も併用していきます。さらに当院ではウェットタイプのFIPには追加治療として再生医療も行っております。
現時点で、FIPの治療を目的とした動物用医薬品は存在しないため、各獣医師が学術的な情報に基づいて未承認医薬品・動物用医薬品またはヒトの医薬品の適応外使用を判断します。
治療にかかる費用は、個体の体重や合併症の有無・種類によって異なるものの、基本的には目安として「モヌルピラビル」は10~15万円、「GS-441524」は20~50万円、「レムデシビル(ほかの薬剤と併用)」は60万~100万くらいとお伝えしています。これは、1クール(84日間)を通しての金額であり、当院での診察料(通院)と治療薬の価格を合算したものです(保険使用可能な場合もあります)。どのお薬も、副作用のリスクがあります。治療を開始する前に当院獣医師より説明をうけ、飼い主様のご同意の上で行うものとします。
よくあるご質問(FAQ)
FIPについてセカンドオピニオンは可能ですか?
他の病院でFIPと診断を受けた、または現在FIPの治療中だという方で、当院の獣医師による客観的なアドバイスが欲しいという飼い主様には、対面またはオンラインでのセカンドオピニオン外来をご利用いただけます。ただし、オンラインでのセカンドオピニオン外来は初診扱いとなるため、この段階で診断やお薬の処方を行うことができません。もし当院でFIP治療を行いたいという場合は、対面での診察が必要となりますことをご了承ください。
多頭飼育を行っている場合、猫コロナウイルスを保持しているねこさんを隔離した方が良いですか?
生活環境を共にするねこさんは、ウイルスも共有している場合が多いのは事実です。しかし、前述の通り、猫コロナウイルスを保持していても全てのねこさんがFIPを発症するわけではないことから、隔離の必要はなく、ねこさんの栄養状態を良くして、過度なストレスがかからないように注意することが大切です。また、4頭以上を飼育する場合は、場所を区切りそれぞれに十分なスペースを用意するようにしましょう。
おわりに
FIP(猫伝染性腹膜炎)は、有効な治療薬があり、早期診断と早期治療が重要な疾患です。FIPについて不安やお悩みをお持ちの飼い主様はぜひ一度ご相談ください。