かゆみが原因で皮膚に赤みや傷、脱毛、ただれなどの症状が起こる場合があります。こういった症状の原因は大きく分類すると感染性のものと非感染性(アレルギーなど)のものに分けられます。今回は当院でも受診が多い「ねこさんのアレルギー性皮膚炎」についてのお話です。
かゆみによる皮膚症状が気になったら
「かゆくて辛そうにしている」「引っ搔き傷ができてしまった」などの症状によって当院を受診された場合、まずは身体検査と問診を行った上で、患部に感染症の原因となる細菌や真菌(カビ)、寄生虫などがないかを調べます。感染症が否定されると、アレルギー性の皮膚炎の可能性が高くなります。
アレルゲン(アレルギーの原因となる物質)にはさまざまな種類があります。問診では、季節性による症状の変化の有無や発症年齢、病変の部位などを詳しく伺いながら原因物質や治療法の判断につなげていきます。アレルギー性皮膚炎の場合は軟便・下痢や喘息など、かゆみ以外の症状を併発する場合もあります(猫アトピー症候群:FAS)。問診ではそういったかゆみ以外の症状についても診ていきます。
※ねこさんのアレルギー検査として、血液検査(アレルゲン特異的IgE検査)があり、ご希望の方には治療開始前にアレルギー検査を実施しています。しかし、ねこさんのアレルゲン特異的IgE検査はまだ調べられる項目数が少なく、現状では(とくに食物アレルギーについては)ねこさんのアレルギー自体にIgE抗体がどの程度関与しているかということが明らかになっていないため、この結果だけでアレルギー性皮膚炎を診断することはできません。あくまで参考程度の検査ということになります。なお、治療中は偽陰性になることがあるため、検査をご希望の場合は休薬が必要になります。
ねこさんのアレルギー性皮膚炎
アレルギー疾患では、「コップに水が注がれていき、そのコップが満杯になった時にアレルギー症状が出る」といった表現が使われます。ねこさんのアレルギー疾患でも、ハウスダストや花粉、食事など、複数のアレルゲンが重なり合って症状が出る可能性があります。つまり、ねこさんのアレルギー性皮膚炎には食事が大きく関わっている場合も多く、当院では基本的に「かゆみと炎症を抑えるための薬物療法」と「食事療法」、そして「外部からのアレルゲンの侵入を防ぐスキンケア」という三つの柱で治療を組み立てていきます。
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薬物療法
まずは、ひっかき傷や脱毛などの皮膚症状の原因となる「かゆみ」を取り除くために、かゆみを抑える薬を使っていただき、それに対して反応があるかどうかを診ていきます。最初は効果が高い薬剤の種類と量を使用しますが、反応に応じてお薬の減量を行い、かゆみを抑えられる最低限の量がどの程度なのかを探っていきます。この量は個体や症状によって差があるため、経過観察によって判断していきます。アレルギー性皮膚炎では、なるべく薬に頼らずに治療を行っていくことを最終的な目標とします。そのために、最初は処方薬をしっかりと服用していただき、その反応を見ることが大切になります。
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食事療法
食事がアレルゲンであると考えられる場合には、まずはねこさん用の除去食(アレルゲンを含まないアレルギー対応の療法食)を第一選択としておすすめしています。除去食では、タンパク質がアミノ酸レベルまで分解されている製品が理想的ですが、味の好みから、除去食を食べられないというねこさんには、加水分解されたタンパク質を含むもの、新規タンパク食(ねこさんが普段あまり口にしないタンパク質を含む療法食)などもご提案します。フードの変更によって症状が改善するのであれば、やはり今までの食事の中にアレルゲンが含まれていたということになりますので、ねこさんが安心して続けることができ、尚且つ症状の改善を見込めるものを選んで治療を行っていきます。
なお、皮膚症状に加えてお腹や咳などの症状もあるねこさんの場合、食事の変更によってそれらの症状も改善するケースもありますが、症状の程度によっては検査を行い、必要に応じてお薬による治療を併用する場合もあります。
アレルゲンが食物ではなく環境中の物質である場合でも、炎症を抑えたり皮膚のバリア機能を強化したりする療法食が有効な場合があります。
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スキンケア
皮膚を清潔に保ち、保湿することによって、外部からのアレルゲンの侵入を防止することはアレルギー性皮膚炎の治療の大切なポイントです。アレルギーの有無に関わらず毎日のブラッシングはスキンケアの基本ですが、それに加えて、ねこさん専用の保湿剤(液体を垂らすタイプやスプレータイプなどがあります)をご活用いただくなどして、皮膚が乾燥しないように気を付けて下さい。
▶ねこさんの基本的なスキンケアについては、ぜひこちらのブログ記事もご参考にしてみてくださいね。
おわりに
ねこさんのアレルギー性皮膚炎では、食事と処方薬、そしてスキンケアという3つの柱で治療を行っていきます。それらを組み合わせながら薬剤を副作用が問題とならない量まで減量、あるいは休薬することを目標としていきます。アレルギー性皮膚炎の治療には時間がかかる場合もあり、不安やお悩みをお持ちの飼い主様も多いかもしれません。気になることがありましたらぜひ診察の際に当院獣医師までご相談ください。